今日は別の内容の日記を書いていたが、内容がうまくまとまらないので、過去に残した「下書き」からディレクターズカット版(とは少し違うが)と称して、目についたものを投稿しておきたい。(一年ほど前に書いたものです)
先日ある映画を観た。それはずいぶん前にいくつかの動画配信サービスでも宣伝されて話題だった
映画「エスター」だった。
「エスター」は子供を死産した夫婦がエスターという孤児を家庭に迎えることから物語が始まるサスペンススリラー映画だ。
そんな「エスター」を知ったのはずいぶん前の事で、耳に入って割とすぐに見た覚えがあるが、その日は疲れていたのか冒頭の部分で寝てしまっていた記憶がある。
その時にはそこまで関心がなかったためか、寝落ちしてしまったのに気づいても、それ以来「エスター」を見ることはなかった。
しかし、この間お酒を飲みながら何か見ようかとアマプラの海をサーフィンしていたら偶然、途中まで再生された「エスター」が目に入り、随分前に寝落ちしたことを思い出して、初めから見ようと映画を再生した。
再生して半分くらいは宣伝の影響か、大衆的なホラーサスペンス映画だろうと思ってクーリッシュを咥えて、中身が溶けるまで外側を揉みながら画面とアイスに視線を往復させたり、母親役の俳優さんが映る度、死霊館シリーズで「めちゃくちゃみたなこの人」とか、夫役の人がたまに死霊館の夫に代わったりしたら面白いなと思いながら映画を流し見していた。
そして、映画は後半になってエスターが同級生や兄弟、シスターへ牙を剝きだすと、エスターは両親に連れられてカウンセリングを受けることになる、そこでエスターはカウンセラーを口車にのせて、母親に問題があるように母親にカウンセラーを仕向ける。
母親がカウンセラーに問い詰められる一方でエスターはその状況にほくそ笑むのかと思えば、次の場面ではエスターはトイレにこもり、こう自分に言い聞かせる「何もバレていないはず、バカな医者」そして、エスターはトイレの中で発狂して叫び出す。
この場面は、エスターが冷徹で、人のことなど人と思わず、自分の不都合はその場の取り繕いで済ますような人物だとすれば、すごくイレギュラーな場面だった。
もしかすると、エスターは情緒不安定で理解の出来ない殺人鬼かもしれない。
しかし、この場面で彼女は本当にカウンセラーを言いくるめられたのかも分からず、不安に駆られ、叫び、喚く。そして、この檻から出してくれと言わんばかりに扉を蹴飛ばし、自分の中の絶望を見たくないと全てを拒む。その様子はまるで本当に子供が地団駄を踏んで「何もかもが気に入らない!」と不満を顕にするようだった。
この場面を見て自分はこの悪役に感情移入してしまっていた。
恐らくこの映画の中で一番孤独で理解などしてもらうことのない悪役に。
エスターの若さはループであり、彼女自身それに囚われてもいる。
家族に入りこみ、都合が悪くなれば全てをリセットしてまた初めに戻る。
そして、そのループは哀しいものである。
いつ自分の過去が知られるかも分からない。この先どのくらいこの秘密を隠し通せるかも分からない。そしてこの生活は長く続かない。エスターはその永遠の若さの中で余った時間を刹那的に生きるどころか、毎日を秘密を隠し通すための必死の未熟な取り繕いに浪費するのである。
だからこそ、トイレの中で暴れ狂うエスターには哀しさとグロテスクな苦しみを覚えてしまうのだった。
今日はこれでおしまい。