からすとカップル

 大学からの帰り道、艶の良い大きな羽根をしたカラスとすれ違った。

カラスは大学の建物くらいある背の高い木を下から眺めながらアスファルトの上を歩いていた。

 

人のようなカラスを横目で見ながら近くの駅まで飲食店が軒を連ねる細い道を歩いていて、ふと思った。

きっとあいつは巣でも作るんだろう。自分の家の前にもカラスの巣があって。でっかい電柱の上にカラスが鎮座している。

休みの日にはその巣から落ちてくる木の枝とかどっかの家からかっぱらってきた何色かもよく分からない曲がって折れたハンガーの掃除を自分がしているのを思い出した。

 

暇な休みの日に家の前の木の枝と謎の針金を掃除する習慣は何も生まないが、なんとなく悪い好奇心で巣が大きくなるのか、もしくはいつか巣が原因で停電でもするのか少しわくわくしてしまっている。

 

細い道に飽きてきたところで、駅に着いて電車に乗って今やってきた駅を滑り出た。すると自分が行きたい駅の二つ手前で乗っていた電車は目的の駅には着かずに回送電車になった。

 

ホームで姿勢を悪くして待ちに待って、次に来た人がいつもより多めに乗った電車に乗って人混みの中で立ってしばらく揺られていると、高校生くらいのカップルっぽい男女が人で埋もれた座席の真ん中で座って談笑しているのに気が付いた。

 

二人を見て、ある時自分がバスで高校から帰っている途中で、乗ってきたカップルっぽい男女を思い出した。その二人はやけにキャッキャッと楽しそうで会話も低い声なんて全く聞こえてこず、良い意味で甲高い笑い声を出す二人を感じて、青春ってあったんだな、思ったより素敵なもんだなと思った。

 

しかし、その後、どうやらその男女と友達の知り合いが色恋沙汰で揉めているのを知り、青春って幻想だったんだと思った。

確かにあの時バスの中でその男女と自分の心の中には青春があったように感じたが、結局、自分の青春はその一瞬の煌めきでしかなかったと思った。

 

そんなことを思い出して、今、目の前にいる男女に自分の体験を重ねてしまっていると思った。

良くも悪くもこの目の前の青春も幻想でしかない。

そんな思い込みを年月が経って、さもあったかのように話し始めるなんて悲しいと

思った。